TOPへ

高血圧

高血圧症とは

高血圧症は、血圧が恒常的に正常値よりも高い状態を指し、収縮期血圧が140mmHg以上、または拡張期血圧が90mmHg以上の場合に診断されます。自覚症状がなく、未治療の高血圧患者はおおよそ2,000万人と推定されています。高血圧のリスクは環境や状態によって影響されますが、早期の発見と治療が重要です。一般的には健康診断で血圧を測定しますが、自己測定器を利用することも可能です。自宅での血圧が130/80mmHgを超える場合、早期の医療機関の受診が望ましいです。自分の血圧状態を把握し、適切な対策を講じることが健康維持につながります。

高血圧症の原因

高血圧の主な原因は、塩分の摂取過多です。また、飲酒、喫煙、肥満も高血圧を引き起こす要因です。遺伝的な影響も大きく、家族に高血圧の症例があるとリスクが高まります。まれに、腎臓、副腎、甲状腺などの病気に伴う二次性高血圧が見られることもあります。

高血圧症の症状

高血圧症自体は通常無症状です。極端に血圧が高い場合には頭痛や倦怠感を感じることがあるかもしれませんが、多くの場合、本人が気付かないまま進行します。しかし、高血圧症で最も懸念すべきは、その合併症です。動脈硬化、脳血管疾患、心疾患、腎疾患などが高血圧の合併症として挙げられます。これらの病態が進行すると、重大な健康リスクが生じます。適切な血圧管理を行うことは、これらの合併症を予防し、健康を守るために重要です。

高血圧症を放っておくと

高血圧症を放置すると、血管壁にかかる圧力が内膜を傷つけ、動脈硬化の進行が促進されます。この過程で心臓が肥大化し、繊維化して心不全を引き起こす可能性があります。また、高血圧により腎機能が損なわれ、腎不全が発生するリスクも高まります。動脈硬化が進むと、心筋梗塞や脳卒中などの重篤な疾患の発症リスクが増加します。最悪の場合、高血圧が原因で命にかかわることもあり、脳卒中や心筋梗塞で亡くなる患者の約半数が高血圧に関連しているとのデータも存在します。

症状がなくても、高血圧の早期発見・治療が重要であり、定期的な検査と健康的な生活習慣の維持が大切です。

 

高血圧症の治療

高血圧症の治療の主な目的は、高血圧による臓器障害の進行を予防することです。適切な血圧コントロールにより、脳血管疾患の発症を35-40%、心筋梗塞を20-25%、心不全の発症を50%以上低減できるとされています。2019年の治療ガイドラインでは、目標血圧が140/90mmHg未満から130/80mmHg未満に引き下げられ、より厳格なコントロールが求められています。

高齢者の場合は降圧に慎重で、診察時と家庭での血圧測定の違いがあれば家庭の値が優先されます。健康診断で高血圧を指摘された場合や、血圧の値が気になる場合は、電気屋や薬局などで血圧計を購入し、自宅で定期的に計測するようにしてください。治療には非薬物療法と薬物療法があり、薬物療法でも生活習慣改善が重要です。ポイントは塩分制限、減量、運動(有酸素運動)、禁煙で、特に減量と運動が有益です。降圧薬としては、カルシウム拮抗薬、β遮断薬、ACE阻害薬、ARB、利尿剤などが主な選択肢で、これらを併用することがあります。

降圧薬・カルシウム拮抗薬

カルシウム拮抗薬は、降圧薬の一種であり、代表的なくすりにはアムロジピン(ノルバスク、アムロジン)やニフェジピン徐放剤(アダラートCR)があります。これらの薬物は末梢血管を拡張させることで血圧を下げる効果があり、降圧効果が確実で副作用も比較的少ないため、多くの症例で第一選択薬として使用されます。

アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)

アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)にはエナラプリル(レニベース)、イミダプリル(タナトリル)、ペリンドプリル(コバシル)などがあります。これらの薬物は、血圧を収縮させるホルモンのアンジオテンシンⅡの生成を抑えます。

降圧効果はそれほど強くなく、心不全や糖尿病、腎疾患の合併を改善する作用もあります。ただし、この薬物の使用に伴って空咳が起こることが知られており、妊娠中の女性には使用できません。

アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)

アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)にはバルサルタン(ディオバン)、テルミサルタン(ミカルディス)、アジルサルタン(アジルバ)、オルメサルタン(オルメテック)などがあります。これらの薬物はアンジオテンシンIIの働きを阻害し、血圧を下げる効果があります。ACE阻害薬と同様に臓器保護作用があり、強力な降圧効果を持っています。副作用がほとんどないため、幅広い症例で第一選択薬として使用されますが、妊娠中の女性には使用できません。

利尿剤

利尿剤にはいろいろな種類がありますが、血圧を下げる目的で使用する利尿剤はサイアザイド系利尿薬と呼ばれるヒドロクロロチアジドやトリクロルメチアジド(フルイトラン)、サイアザイド系類似薬のインダパミド(ナトリックス)などがあります。これらの薬物は腎臓でナトリウムと水の排泄を促進し、循環血液量を減少させることで降圧効果を発揮します。利尿剤は減塩と同様の作用があり、他の降圧剤と併用する場合の相性が良いです。また、脳血管疾患や心不全を予防する効果も期待されます。ただし、低カリウム血症などの副作用には注意が必要です。

β遮断薬

β遮断薬にはカルベジロール(アーチスト)、ビソプロロール(メインテート)などがあります。これらの薬物は心臓からの血液の拍出量を抑えることで血圧を低下させます。降圧薬としては第一選択薬としては使用されませんが、強力な降圧が必要な方に他の薬剤と併用して使用します。また少量の場合は心臓の保護効果があるため主に心不全の治療薬として使用されます。

α遮断薬

α遮断薬にはドキサゾシン(カルデナリン)が代表的な薬物です。これらの薬物は末梢血管を拡張させることで降圧効果を発揮します。第一選択薬としては使用されず、通常は治療抵抗性高血圧に対して他の降圧剤と併用されることが一般的です。副作用としては起立性低血圧に注意が必要です。

抗アルドステロン薬

抗アルドステロン薬は利尿剤の1種で、アルダクトン(スピロノラクトン)、エプレレノン(セララ)、エサキセレノン(ミネブロ)が代表的な薬物です。これらの薬物は腎臓でナトリウムと水の排泄を促進し、循環血液量を減少させて血圧を下げます。治療抵抗性高血圧に対して有効なことがあります。特にアルダクトンはかつて女性化乳房・勃起不全・月経痛などの副作用が懸念されましたが、エプレレノン、エサキセレノンでは副作用が少なくなりました。

新薬サクビトリルバルサルタン(エンレスト)

新薬サクビトリルバルサルタン(エンレスト)は心不全治療薬として登場し、現在は高血圧症にも適応が認められています。これはARBであるバルサルタンにサクビトリルが組み合わさった薬で、サクビトリルは「ナトリウム利尿ペプチド」と呼ばれる血圧を下げるホルモンの働きを強め、通常のARBよりも強力な降圧作用と臓器保護作用が期待されています。高齢者はお薬の代謝機能が低下しているため、治療は注意深く様子を見ながら徐々に増やしていくことが理想的です。

治療効果の確認には、診察室だけでなく家庭での血圧測定が重要であり、血圧のコントロールを継続的に行うことが推奨されています。

 

治療の流れ

1初診 (初回の相談を受けます)

初回の相談では、患者の症状や健康状態を詳しく聞き取ります。必要に応じてレントゲン、血液検査、心電図検査、身長・体重測定などの検査を実施し、合併症の有無を確認します。

2再診1回目 (1週間後)

検査結果をもとに初期診断と治療方針を患者と共有します。

3再診2回目 (約2週間後)

薬の初回効果を判定し、必要に応じて心臓のエコー検査や大動脈瘤の確認を行います。

4再診3回目 (約2週間後)

薬の調整を行います。

5再診4回目 (約2~3週間後)

薬の第2次効果を判定し、80%の患者が血圧のコントロールを完了します。頸動脈エコー検査結果から高血圧による動脈硬化の状態を把握し、適切な治療方針を決定します。

6定期診察

月1回の診察で体重増減や血圧の確認を行い、健康的な生活のための指導と評価を提供します。必要な検査を通じて、病気を予防するためのコーチングを行い、ご自身とご家族が健康な人生を送れるようサポートします。

生活習慣の改善

高血圧症の原因として、塩分の過剰摂取が挙げられます。日本食は世界的に認められている健康的な食事ですが、実は塩分に関しては別です。成人では目標として1日に6g未満の塩分摂取が推奨されていますが、通常の日本人の食事中には塩分が10-12g含まれており、食事制限が必要です。肥満も高血圧の要因であり、適度な運動や塩分制限とともにバランスの良い食事での減量が重要です。定期的な有酸素運動(例: ウォーキング、ジョギング)は血管の拡張やインスリン抵抗性の低下に寄与し、血圧の調整に効果的です。

喫煙や過度なアルコール摂取は高血圧の原因となるため、控えめな飲酒と禁煙が必要です。さらに、ストレスや睡眠不足も高血圧を引き起こす可能性があるため、リフレッシュ方法を考えながら、日常生活での対処を心がけましょう。

当院では管理栄養士による栄養指導によって、減塩や食事制限などの食事療法をサポートします。またスポーツ科学博士の医師による、最新のスポーツ科学研究に基づいた運動処方を行い、効率的かつ効果的な運動による減量をサポートします。